福岡家庭裁判所 昭和43年(少ハ)1号 決定 1968年8月17日
本人 M・D(昭二三・八・一九生)
主文
少年を昭和四四年八月一六日まで中等少年院に継続して収容することができる。
理由
本件申請は「右少年は、昭和四二年五月四日貴裁判所において中等少年院送致決定をうけ、昭和四二年五月九日当院に入院したものである。
然るに昭和四二年六月一四日午前十一時五分頃自動車整備科実習教室より教官の隙を窺つて逃走し、福岡、広島、福岡、松山、神戸と各地を放浪その間、単独又はA二二歳位と共謀し窃盗等二二件を敢行、昭和四二年一〇月一八日逮捕され、貴裁判所における検察官送致決定を経て、昭和四三年五月三〇日福岡地方裁判所において、少年院入院前の窃盗等余罪六二件と併せ(別紙写のとおり)公判に付され懲役二年以上四年以下の判決をうけたが、これを不服とし去る六月一〇日控訴、続いて七月八日保釈となつたところを、当院において連戻状執行し復院せしめたものである。
少年は、逃走時には入院後未だ日浅く二級の下であり、復院した現在三級に降級され当院における最下級の処遇段階のものであるが、来る八月一九日満齢に達し収容満期となるものである。
従つて、前述の如く実刑が確定することも充分考えられるが、本人の収容歴並びに犯罪的傾向が矯正されていない実情にてらしその将来を考えるとき更に収容を一ヶ年継続することが望ましいと思料されるので、少年院法第一一条第二項に基き収容継続を申請する。」というのである。
よつて審理するに、少年および福岡少年院長井上謙二郎の各供述並びに本件記録、当裁判所調査官渡辺邦子の調査報告書、少年の社会記録、当裁判所が取寄せた少年の第一審刑事裁判記録によると次の事実が認められる。
少年は幼少より家庭環境に恵まれなかつたが、定時制高校を中途退学する頃から生活が次第に放縦となりコック見習、バーテン等の職業を転々とする中、同一職場のウエートレスと同棲するようになり勤労意欲を失い生活の資を内妻の収入に頼り自分は無為徒食の日々を送つていたがとぼしい内妻の収入では生計を維持するにも足らず遊興費に窮しその資を得るため窃盗非行六四件を犯し、その中一件ミノルタカメラ六五台外物品七点時価合計一五八万円余の窃盗保護事件により、当裁判所において昭和四二年五月四日中等少年院送致決定を受けた。
少年は、右中等少年院送致決定に基き同年五月九日福岡少年院に入院したものの凡そ一ヶ月後の同年六月一四日午前一一時五分頃同少年院を逃走し同年一〇月一九日逮捕されるまで窃盗非行二二回を重ね、同年一一月二二日当裁判所において前記少年院送致決定以前の窃盗余罪六三件及び逃走中に犯した窃盗二二件合計八五件並びに業務上過失傷害事件により検察官送致決定を受け、昭和四三年五月三〇日福岡地方裁判所において右窃盗等の被告事件により、二年以上四年以下の懲役に処する。未決勾留日数中一六〇日を右刑に算入する旨の判決言渡しを受けたが同年六月一〇日少年が右判決につき控訴の申立をなした。
ところで少年の弁護人は右判決言渡し以前に福岡地方裁判所に少年の保釈申請をなしたが、同裁判所はこれを却下し、これに対し弁護人は準抗告を福岡高等裁判所に申立て、同裁判所は同少年は常習として長期三年以上の懲役にあたる罪を犯したものであり又住所の定まらぬものであるから刑事訴訟法八九条三号六項に該当するという理由でこれを棄却した。少年はその後前記実刑判決の言渡しを受けたが再び保釈申請をなしたところ同年七月五日福岡地方裁判所はその申請を認め保証金一〇万円をもつて保釈許可決定をなし、少年は金一〇万円の保証金を提出して釈放されたところ、福岡少年院より当裁判所に連戻状請求があり右請求に基づき当裁判所が発付した連戻状の執行を受けて同年七月八日同少年院に復院したものである。
少年は以上の事情により同少年院に再び収容されるところとなつたが、同年八月一八日限りで満二〇歳に達するものである。
以上のような事情にある少年に対する本件収容継続申請につき考えるに、先ず少年法二七条一項によれば保護処分の継続中本人に対し有罪判決が確定したときは保護処分をした家庭裁判所は相当と認めるときは決定をもつてその保護処分を取消すことができる旨規定されているところ、同条の趣旨は保護処分より優先する刑の執行により既存の保護処分が妥当を欠くような場合の調整にあると考えられるから、同条の趣旨からしても刑事裁判の実刑判決の言渡しがあつてもなお保護処分決定の言渡しは可能であり準保護事件である収容継続申請事件についても又同様と解せられる。
次に本件のような事情にある少年に対して収容を継続して矯正教育を施す必要があるかどうかについて考えるに、少年は前記のとおり福岡地方裁判所において実刑判決の言渡しを受けたものであるが、右判決が確定しない以上少年に対しては前記中等少年院送致決定により福岡少年院で矯正教育を受けさせねばならないところ、少年は同少年院に入院後間もなく逃走して殆んど矯正教育を受けておらず加えて逃走中窃盗非行を数多く繰返していることを考えると相当長期の矯正教育の必要が認められ、現に同少年院において三級に降級され最下級処遇段階にあつて満二〇年を迎える昭和四三年八月一八日限りではとうてい少年の犯罪的傾向を矯正することは困難であるから本件申請は理由があり上記諸般の情状を考慮すると収容継続期間一年も又相当である。
よつて少年院法第一一条四項少年審判規則第五五条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 早船嘉一)